映画評論家の淀川長治さんが、偉大な映画監督であるチャールズ・チャップリンが「ライムライト」を撮影しているスタジオを訪れた時のこと。
チャップリンはリハーサルで、「ライムライト」の中の名セリフ「時は偉大なる作家である。いつも、完璧なる結末を描く」を、何度も繰り返している。ある時は、低く抑えた声で、ある時は、大きく叫ぶように……。
その撮影風景を見ているうちに、淀川さんは、涙をこらえられなくなってしまう。気づいたら、大声を出して泣き出していた。
淀川さんが泣いているのに気づいたチャップリンは、すぐに彼のところに駆け寄ってきて「なぜ、泣いているんだい」と聞いたそうです。
淀川さんは、チャップリンの白髪を指さしながら、自分はあなたの映画を初期のサイレントからすべて見てきていることを告げました。
チャップリンは、淀川さんの気持ちを悟り、強く彼をその場で抱きしめたそうです。
想えば、チャップリンの映画人生も、長く、波乱に満ちていた。ナチスドイツが猛威をふるっている時代に、映画「独裁者」を命がけて撮ったこともある。栄光を勝ち得たチャップリンも、また「孤独の人」なのです。
若い美男子だった役者・チャップリンが、今や白髪の老人となり、愛した女性が若い青年と結ばれるという運命を見送ろうとしている。その思いを、チャップリンは、以下のセリフに込めたのです。
Time is the great author, always writes the perfect ending.
撮影中のスタジオで、偉大なる映画監督であり役者であるチャールズ・チャップリンが、自分の孤独、淋しさを、淀川さんが理解してくれたことに感動しているのですね。
人と人との心が、これほど美しく触れ合っているケースは滅多にありません。
それにしても、「時は偉大な作家である。いつも完璧な結末を描く」は、素晴らしい名言ですね。
チャップリンの深い悲しみを読みとれるとともに、人間へのあふれんばかりの愛情と運命愛が感じられます。
チャップリンの名言に関する記事はこちらをお読みください⇒チャップリンの名言